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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和59年(ネ)17号 判決 1986年1月24日

控訴人

株式会社鳴和タクシー

右代表者代表取締役

塩村勝之

右訴訟代理人弁護士

猪野愈

被控訴人

鳴和タクシー労働組合

右代表者執行委員長

気谷正信

被控訴人

石川県ハイタク共闘連絡会議

右代表者議長

西野繁

被控訴人

石川県労働組合評議会

右代表者議長

粟森喬

右被控訴人ら三名訴訟代理人弁護士

北尾強也

菅野昭夫

主文

一  原判決主文第一項中、控訴人の被控訴人鳴和タクシー労働組合に対する請求を棄却した部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人鳴和タクシー労働組合は控訴人に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和五〇年七月九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人の右被控訴人に対するその余の本訴請求を棄却する。

二  控訴人の被控訴人鳴和タクシー労働組合の反訴請求に対する控訴並びに被控訴人石川県ハイタク共闘連絡会議及び被控訴人石川県労働組合評議会に対する控訴を棄却する。

三  控訴人と被控訴人鳴和タクシー労働組合間の訴訟費用は、第一・二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その余を右被控訴人の負担とし、控訴人のその余の被控訴人らに対する本件控訴費用は控訴人の負担とする。

四  この判決は第一項1につき仮に執行することができる。

事実

一  控訴人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人鳴和タクシー労働組合の請求を棄却する。被控訴人らは各自控訴人に対し金一〇二万三七三〇円及びこれに対する昭和五〇年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  昭和四九年五月三〇日、控訴会社代表取締役塩村勝之と被控訴人石川県ハイタク共闘連絡会議議長篠塚重男との間で、団体交渉は会社側、組合側各三名で行い、真剣に討議できる雰囲気を作るものとし、その中に篠塚議長も入ること、斉藤ほか二名の不良運転手の処分は六月一〇日以後に行うものとする、労使関係の悪化を招くような行動や言動は会社組合双方とも慎しむものとする旨の合意が成立した。ところが被控訴人らは右合意を一方的に破棄し、同年六月九日の団体交渉に、被控訴人石川県労働組合評議会の白浜・梅沢の二名及び被控訴人鳴和タクシー労働組合(以下「被控訴人労組」という。)の組合員六名が出席した。そのため塩村勝之は同日の団体交渉を打切つたのであり、被控訴人労組幹部に対する不信感を抱くに至つたものである。その後控訴人は被控訴人労組に対し数回団体交渉の申入れをなしているのである。したがつて控訴人は正当の事由がなく団体交渉を拒否していない。

(二)  被控訴人労組の組合員らは、昭和四九年七月二六日午前八時四〇分ころ本件ストライキ突入と同時に、道路側にあつた控訴人保有の営業車六台の前輪を取り外し後輪のタイヤの空気を抜いてしまつた。その後、同年九月一日夜控訴人が車輪を引上げようとした際を除いて、昭和五〇年三月二二日本件ストライキが解除されるまで、被控訴人労組は原判決別紙第一目録記載の控訴人保有の営業車を排他的に支配していたものである。したがつてその間に生じた右車輛の破損について被控訴人労組は管理上の責任を免れない。また被控訴人労組組合員らは本件ストライキと同時に塩村哮治個人の自家用車も本社ガレージに搬入してこれを使用不能ならしめ、かつ破損したのである。更に被控訴人労組組合員らは東金沢車庫に置いてあつた控訴人保有の集金車をエンジンキーが会社に保管されていたにもかかわらず、本社車庫に搬入した。右の各所為はすべて斗争の一貫として被控訴人ら三者の指導のもとに実行されたものであつて、被控訴人労組組合員らが個々に勝手にしたものとは到底いえない。

(三)  控訴人が昭和四九年一二月二四日まで営業をしなかつたのは次の事由によるものである。すなわち、控訴人は警察当局からトラブル防止のため当分営業行為を控えるように注意されており、また当時被控訴人労組組合員や支援組合員が、非組合員の自宅などへ連日二〇名ぐらいで押しかけ、スト破りなどと散々罵倒するという状況であつたので、営業を開始して非組合員をして乗務させた場合、被控訴人労組によつて妨害される危険が十分予想されたため、控訴人は妨害による事故発生の危険を冒してまで営業を再開することはできなかつたのである。

2  控訴人の右主張に対する被控訴人らの答弁

(一)  控訴人の主張(一)は否認する。そもそも団体交渉の組合側のメンバーや人数などについて会社側が容喙したり、そのことが気に入らないからといつて団体交渉を拒否できないことは労組法七条二号三号からいつて多言を要しない。被控訴人労組は、被控訴人労組側の団体交渉委員として、会議場に入りきれない程の人数を要求していたわけでなく、被控訴人労組執行部と被控訴人石川県労働組合評議会の白浜と梅沢が被控訴人労組側の団体交渉委員であることを明示していた。控訴人の右(一)の主張は当審においてはじめてなされたものであり、時機に遅れた攻撃防禦方法であるから、却下されるべきである。

(二)  控訴人の主張(二)は否認する。本件ストライキは、当日各営業車を運転する運転手が勤務終了後、帰社して控訴会社本社の車庫に駐車していた状態で開始されたにすぎない。被控訴人労組の行為はいわゆる平和的説得の範囲内の正当なピケッティングである。また被控訴人らが車輛の損壊を指示したことはなく、白浜らはむしろそれを戒めていたのである。

(三)  控訴人の主張(三)は否認する。

3  証 拠<省略>

理由

一控訴人の本訴請求について

1  当事者能力について

(一)  <証拠>によると、被控訴人労組は昭和四九年四月四日結成された控訴会社従業員をもつて組織する労働組合で、登記されてはいないが、団体としての組織・規約を備え、代表者の定めを有していることが認められるから、被控訴人労組は、権利能力なき社団として当事者能力を有すると認められる。

被控訴人労組は、本訴提起後三名の組合員は次々と控訴会社を退職しその結果、組合員は皆無となり、本訴提起後消滅した旨主張し、右三名の従業員が退職した事実は当事者間に争いがない。そして、前記<証拠>によると、退社によつて組合員は組合より説退することになるため、現在被控訴人労組の組合員は皆無となつていることが明らかである。しかしながら、組合員が欠亡しても、民法第七三条の類推適用により、清算の目的の範囲内においてなお存続するものとみなすべきであり、控訴人の本訴請求の趣旨及び原因に照らせば、本訴請求は、被控訴人労組の清算に関するものと認められるから、右清算結了に至るまではなお権利能力なき社団として存続するものというべきである。従つて、被控訴人労組はすでに消滅し当事者能力がない旨の被控訴人労組の主張は採用できない。なお控訴人は、右の如く当事者能力を有する団体である被控訴人労組に金銭支払義務があると主張して本件給付の訴を提起しているのであるから、被告としての当事者適格に欠けるところはない。

(二)  <証拠>によると、被控訴人県評は、基本綱領を掲げ、同綱領の主旨を実行し、その理想を達成するための活動を推進することを目的として、石川県内にある労働組合並びに協議体をもつて組織する団体であり、労働組合として登記された者ではないが、団体としての組織・規約を備え、代表者の定めを有していることが認められるから、被控訴人県評は、権利能力なき社団として当事者能力を有すると認められる。

そして、<証拠>によると、被控訴人労組は、結成と同時に被控訴人県評に加盟したことが認められるから、被控訴人県評は、複数の団体によつて組織される連合団体で被控訴人労組からみて、被控訴人県評は地域組織としての上部組織ということができる。なお上部組織といえども労働組合法第二条の要件を充足している場合には、同法上の労働組合として取扱うべきは当然であり、前掲証拠によれば、被控訴人県評は右要件を備えているものと推定される。

(三)  <証拠>によると、昭和四三年四月ごろ被控訴人県評加盟の労働組合のうち、ハイヤー・タクシー関係の労働組合の相互連絡を目的として被控訴人ハイタク共斗がつくられたこと、そして、年三ないし五回会議が開かれ、加盟組合は毎月一定額の分担金を拠出し、議長及び事務局長の役員を有し、内部的に話合いをするだけでなく、ハイタク行政問題につき労働省、運輸省と接衝したり、加盟労組の争議支援などをしてきたことが認められる。右事実によると、被控訴人ハイタク共斗はいわゆる連絡協議体であつて、労働組合とまではいえないとしても、団体としての組織・活動を有し、代表者の定めもあるから、権利能力なき社団として当事者能力があると認められる。右認定に牴触する<証拠>は採用できない。

2  本件争議の実行者について

(一)  被控訴人労組が昭和四九年七月二六日より無期限ストライキに入り、昭和五〇年三月二二日までこれを継続した(以下本件ストという)事実は当事者間に争いがない。

控訴人は、本件ストは、被控訴人労組、同県評、同ハイタク共斗の三者が指令し、共同して実行したものであると主張するが、<証拠>を総合すると、被控訴人労組は、昭和四九年七月二三日の組合大会において満票をもつてスト実施を決議したこと、そしてその後、執行委員会が細目・戦術を決定し、同委員会の指令によりこれを実行に移したことが認められ、被控訴人県評、同ハイタク共斗が被控訴人労組と共同して本件ストを実行した事実を認めさせる証拠はないから、本件ストは被控訴人労組が自らの意思で実施を決定し、これを実行したものと認めるを相当とすべく、本件ストの実施主体は被控訴人労組というべきである。

(二)  控訴人は、被控訴人県評は、オルグを派遣し、スト実施に参画させまた資金援助をしている旨主張する。そして、前記(一)掲記の証拠によると、日本労働組合総評議会(以下総評という)は各地県評に対し地方オルグを派遣し(給与は総評負担)、未組織労働者の組織化と県評への加盟を主な目標として活動させていたもので、当時被控訴人県評にも四名が配置されていたこと、オルグは被控訴人県評の機関でも役員でもなく独自に行動していたところ、白浜及び梅沢は昭和四九年四月四日の被控訴人労組の結成にオルグとして相談・助言をしていた経緯から、本件ストに関しても被控訴人労組から相談を受け助言・指導をしたこと、しかし同人らはオルグとしてそれ以上の介入をしたことはなく、勿論被控訴人県評としても、正式機関で本件スト実施を決議したり指揮・命令したことはなかつたこと、また、本件スト期間中被控訴人労組からスト参加組合員に対し生活資金が渡されたが、同資金は被控訴人県評が石川県労働金庫から借入れて被控訴人労組に貸付けたものであつて、返済を予定した金員であつたこと、もつとも右借入金はスト解消後支援組合員からのカンパによつて填補されたため、返済せずにすんだことが認められる。また控訴人は、スト中に配布されたビラには被控訴人三者の名が併記されていた旨主張する。そして、<証拠>によると、ビラ末尾に右三者の名が連記されていることが認められるが、前記(一)掲記の証拠によると、被控訴人労組が行つた本件ストについて、被控訴人県評、同ハイタク共斗加盟の組合及び協議体が支援の態度を示したので、そのうちの代表的なものとして、被控訴人県評及び被控訴人ハイタク共斗の名を連ねたに過ぎないこと、右ビラの内容も本件ストの趣旨・経緯を述べ支援を訴えているものであること、被控訴人ハイタク共斗は、被控訴人労組がハイタク関係の組合であつた関係上、本件スト実施を知り、これを支援することになつたこと、そしてそもそも連絡協議体である性質上、被控訴人ハイタク共斗としては、加盟組合のストについて指揮権・統制権はなく、本件ストに実質的に関与したことはないことが認められる。すると、控訴人主張の事実ではまだ被控訴人県評及びハイタク共斗が本件ストの共同実行主体であつたと認めることができず、同人らは被控訴人労組の要請に基づき、本件ストを単に支援した者にすぎないと認めるのが相当である。<証拠>は右認定に抵触するものとはいえず、右認定に反する<証拠>はいずれも採用できない。その他本件ストが三者の指令により共同で実行されたものであることを根拠づける控訴人主張のその余の事実についてはこれを認めさせる適切な証拠はない。

(三)  すると本件ストが違法であるとし損害賠償を求める控訴人の本訴請求は、被控訴人県評及び同ハイタク共斗に対する関係では、行為主体とは認められないので、その余の点につき判断するまでもなく失当であることが明らかであるというべきである。

3  本件ストの態様について

<証拠>を総合すると、次の事実を認定することができ、同認定に抵触する<証拠>は採用できない。

(一)  被控訴人労組は、昭和四九年七月二六日午前八時過ごろから、通告なしに無期限ストに入つたが、これより先六時半ごろから東金沢営業所に配置されていた営業車一〇台がスト参加従業員によつて本社営業所に集められ、七時すぎ本社営業所配置分一三台と合わせ控訴人保有の営業車のすべてが本社営業所内に集結させられた。そして各車のキーは参加組合員らが集めて一まとめにして保管し、本社営業所従業員控室や車庫土間、同道路側出入口附近にスト参加組合員や支援組合員ら多数が集つたため、スト開始時には右車輛二三台は被控訴人労組の事実上の支配下に置かれる状況となつた。そこで控訴会社代表者塩村勝之は非組合員一〇名、管理職・役員三名をして就労させるべく、そのころ非組合員らとともに本社営業所前に行き、被控訴人労組に対し営業車の引渡しを要求し、就労を妨害しないよう要請したが、自動車の引渡しを受けることができなかつた。そこで準備して来たスペアキーを使つて、まず道路側前面にあつた一台を動かそうとしたが、バッテリーの配線が外され、電気経路の一部であるローターが除去されていたため、エンジンはかからず、しかも周囲にスト参加組合員や支援の者多数が集つてきたため応急修理も困難となり、その余の車輛についても同様の状況であると判断されたので自動車の回収をしないまま引揚げた。その後スト参加組合員や支援の者は昼夜交代で乗務員控室やその附近に滞在して同部分を占拠し、また車庫前面にスト参加組合員や被控訴人県評の自動車を駐車させたため、営業車二三台は車庫から出すことができず、引続き被控訴人労組の占有下におかれたままになつていた。なお、東金沢営業所にあつた控訴人保有の自家用車一台(八石く六六―〇七)が、その頃、控訴人不知の間にスト参加組合員によつて本社営業所に移動させられ、そのまま抑留された。

(二)  控訴人は非組合員に就労させるべく、実力行使をしても車輛を取戻そうと考え、同年九月二日未明、約二〇名で本社営業所に赴き、電源を切つて暗闇にしたうえ、角材、とび口、竹ざおをふり回すなどし、実力をもつて三名のスト参加組合員、三名の支援者を控室に無理矢理押し込め、その隙に営業車十数台を車庫から持出したが、これを奪回すべく竹ざおなどを持つて追いかけて来たスト参加組合員らと乱斗となり、三台を置去りにしたままようやく一〇台を牽引して引揚げることができるに止まつた。その際、控訴人側が乗つて来た控訴人所有自家用車一台(石五五さ八―三九)も右乱斗のため持帰ることができず、附近に置去りにしたため、被控訴人労組は右奪回した三台、自家用車一台を本社営業所に持帰り収容した。なお、右乱斗で被控訴人労組側の六名が負傷し、控訴人側も二名が負傷した。同日昼、非組合員の一人が所用で控訴人保有の自家用車(石五五す二七―三八)に乗つて本社営業所前空地に到り、同所に右自家用車を駐車させようとしたところ、本社営業所内にいたスト参加組合員らが出て来て右非組合員他一名を暴力をもつて引きずり降し、バットで車体各部を強打し右自家用車を右非組合員から奪いとり、本社車庫内に抑留した。その結果、被控訴人組合が支配下においた車輛は、右時点で営業車一三台、自家用車三台合計一六台となつた。そして被控訴人組合は、控訴人の再度の奪回襲撃を虞れ、これを防止するため前面にある自動車の車輪を一部外したり、タイヤの空気を抜くなどした。しかし再度の来襲がなかつたため、間もなく外した車輪を装着したが、空気は抜けたままにして放置した。

(三)  控訴人は同年一二月一二日内容証明郵便で被控訴人ら三名に対し、占有している控訴人所有又は保有の自動車一六台の引渡し並びに建物部分の明渡しを求めたが被控訴人らは応じなかつた。昭和五〇年一月一九日午後一〇時三〇分ごろ本社営業所三階の住居部分にいた控訴人代表取締役塩村哮治が下から「出て来い」というスト参加組合員の呼び声で一階に降りて行くと、右組合員らに囲まれ、話合いをしているうち、激高した一名から右頬部を手拳で強打され、続いて騒ぎを聞いて二階の住居から出て来た塩村暁子も同人らから両側頬部、右第一手指部を強打され、それぞれ同部位に打撲症を受けた。控訴人は取戻した四台に非組合員を乗務させ営業しようとしていたところ、スト参加組合員からいやがらせや妨害を受ける虞れがあつたので昭和四九年一二月二〇日付書面をもつて石川県警察本部長に対し、組合員らが威力をもつて業務を妨害する事態が起きた場合は、英断をもつて取締りに当つてほしい旨の申入れをした。スト参加組合員らは控訴人の営業妨害行為をし、そのうち昭和四九年一二月二六日、昭和五〇年二月七日、同月八日と営業中の車両の非組合員運転手に対しては、脅迫言辞をもつて同人らの業務遂行を妨害した。そのため同年二月一九日被控訴人労組執行委員長他一名の組合員が威力業務妨害の嫌疑で逮捕された。本件ストは同年三月二二日解除され、被控訴人労組から抑留自動車のキーの一括返還と建物部分の明渡しが行なわれた。スト開始から右解除までの期間中、抑留された自動車に関し、車体及び部品の損傷、塗装面の汚損、バッテリー上り、タイヤ・チューブの損傷等が、建物に関し、錠の損傷、窓ガラスの破損、壁の落書き等が発生していた。

以上の事実が認められるところ、右事実によると、本件スト期間中、被控訴人労組は、控訴人所有又は保有にかかる前認定の自動車及び建物の一部を実力ないしは暴力をもつて占有・占拠し、右各物件に対する管理・保存行為を不能ならしめかつこれを一部損壊したと認められる。

被控訴人労組は、控訴人がスト開始後営業車につき眞摯な返還請求をせず、法的手段による被害回復の努力をしていないから、むしろ争議の長期化、営業の休止を容認していたとみられる旨主張する。そして、控訴人が本件自動車等の返還に関し内容証明郵便の発送以外には法的手続をとつた事実は認められないが、前認定にかかる事実経過に照らすと、控訴人が被控訴人労組による自動車の占有を容認し、返還を断念していたとはとうてい認められず、被控訴人労組の右主張は理由がない。

4 本件ストの違法性について

(一) 控訴人は本件ストは違法であると主張するので判断するに、同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるというべきである。しかしながら労働者の団体行動権は憲法第二八条で保障された基本的人権の一つであることから考えると、ストライキをもつて、あくまで労務提供の拒否という消極的態度・状態に止まるべきであり、それ以上の行動を一切違法とすることはできず、争議権が認められた目的・趣旨並びにその実態に照らすと、単なる不作為に止まるだけでなく、労務不提供を実効あらしむるための積極的行動をも含めたスト中の行為全体を観察し、諸般の事情のもとで、それが前述の争議行為としての本質に照らし、質的に逸脱するものか否か、暴力を伴なうものか否かを判断し、そのストの正当性の有無を決するのが相当であると解される。

これを、本件についてみるに、被控訴人労組はスト開始とともに控訴人所有建物の一部を占拠し、控訴人所有の営業車の殆どを意識的に集結させてそのキーを一括抑留・保管し、ローターを外すなどし、もつて有形力の行使によつて会社財産の管理権を侵し、また労務提供拒否を実効あらしめる手段としては必然性がないと思われる控訴人所有又は保有の非営業車三台までも抑留し、そのうち一台は明らかに暴力により奪取したものであること、これに対処し、控訴人が暴力をもつて自力で取戻しをしようとした点は違法性を阻却しないというべきであるが、被控訴人労組側がその際、一旦奪取された自動車の一部を再び暴力をもつて奪回したことは、本件ストを実効あらしめるためとはいえ、そこまでする必要があつたのか疑問であり、これをもつて労務不提供を実効あらしめるためのこれに付随する必然的かつ相当な行為とはとうてい解されず、ストの本質を逸脱しているとみられること、その後、車輪を取りはずしたり空気を抜いたりしたことは、有形力の行使と評価されること、以上に加え、ストが約八か月の長期に及び、その間自動車及び建物の保存・管理状態も必ずしも良好でなかつたこと等の事情を総合して判断すると、被控訴人労組が継続してなした前記建物占拠、自動車抑留を内容とする本件ストは、その態様において、法によつて認められた同盟罷業の実質を一部において逸脱し、かつ暴力を伴つたものであるということができ、その限度で違法なものというべきである。被控訴人労組は、右自動車の抑留等は平和的説得の範囲を出ない正当なピケットというべきである旨主張するが、前認定の本件ストの態様に照らすと、相当な限度を超えていると認められるので、右主張は採用できない。

(二)  被控訴人労組は、タクシー業など運送業の場合には、単なる労働力の不提供だけでは争議の実効性を期することはできず、車両の確保は不可欠であると主張するが、運送業の場合有形力を行使して車両を組合占有下に置く以外に全く方法がないといえるかどうか疑問があるのに対し、右業種の場合、車両は会社にとつて重要な中枢的営業資産であるから、これを奪われることは経営上致命的というべく、かれこれ比較検討すると、少くとも有形力を行使して過半の車両を支配下におく形でのストについては違法性を阻却しないと解するを相当とすべく、業種の特殊性から他業種の場合とは別異に解すべきである旨の右主張は採用できない。

被控訴人労組はまた、本件ストが争議行為として正当性を有すると評価すべき事情が存在する旨主張する。そして、昭和四九年四月四日被控訴人労組が結成され、同年四月五日控訴人に賃金改定について団交を申入れ、その結果、従来の賃金が歩合制とリース制の二本立であつたものを、被控訴人労組の要求により歩合制一本にすることを明言し、同年四月二五日には控訴人側の歩合制案が示されたこと、しかるに控訴人は同月三〇日には、リース制(ボーナス還元方式)を実施する旨提案したため被控訴人労組は、同年五月一日からスト(第一次)に入つたこと、その間交渉を続けた結果、同年四月二五日の団交における会社案を基調とした歩合制賃金について合意ができその旨協定書が作られ、脱退組合員の処遇についても覚書が交され、右第一次ストは同日解除されたこと、しかるにその後再び労使間に対立が生じ、被控訴人労組は、①解雇四名を含む一切の不当処分の撤回、②昭和四九年五月一二日労使間に成立した賃金協定の細目の具体化、③昭和四九年度夏期一時金の支払、④労使協議のルールの確立という四つの要求事項を掲げて、昭和四九年七月二六日から第二次ストである本件ストに入つたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。被控訴人労組は、第一次ストに入るまでの経過においてもさることながら、第一次スト解決後第二次ストに入るまでの間における控訴人の対応に非があるから本件ストは強力なものにせざるを得なかつたとの趣旨を述べるが、かりに第二次ストに至る過程に控訴人の責に帰すべき原因が認められるとしても、それだけの理由で一般には認められない例へば暴力を含む違法ストが許容されるということにはならない、換言すれば、ストを招来した原因について、控訴人に責任があるとすれば、それ自体の責任が追及されるべきであつて、それ故に被控訴人労組の行なう違法ストの責任が免除・相殺されることにはならないというべきである。従つて、被控訴人労組の右主張は採用できない。

5  本件ストによる損害について

(一)  <証拠>を総合すると、被控訴人労組が行つた本件ストにより抑留した控訴人所有又は保有にかかる自動車(1ないし13は営業車)のうち、

(1) 石五五い二一―一〇について

バッテリーの充電及び点検費用一一〇〇円、被控訴人労組の組合員が車庫内でストーブを使用したため車体に付着したストーブの黒煙を除去するための清掃及びワックスがけ等の費用二万二〇〇〇円、バッテリーの取替費用一万二〇〇〇円、タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計四万六三〇〇円)

(2) 石五五い一五―五五について

バッテリーの点検費用五〇〇円、バッテリーの取替費用一万二〇〇〇円、タイヤ一本五一五〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計一万八五五〇円)

(3) 石五五い三二―五八について

バッテリーの点検料及び配線一部修理費六〇〇円、ヘッドランプ・ブレーキランプ・スモールランプ等電気系統の点検費用一二〇〇円、前記(1)記載と同様の理由により要した清掃及びワックスがけ等の費用一五〇〇円、バッテリーの取替費用一万二〇〇〇円、タイヤ一本五一五〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計二万一三五〇円)

(4) 石五五い二四―〇〇について

バッテリーの取替費用一万二〇〇〇円、タイヤ四本二万〇六〇〇円、チューブ三本二七〇〇円(以上合計三万五三〇〇円)

(5) 石五五い二七―八六について

ヘッドランプ・ストップランプ・スモールランプ等の点検及び一部配線取替の費用一五〇〇円、バッテリーの取替費用一万二〇〇〇円、タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計二万四七〇〇円)

(6) 石五五い一七―八九について

タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計一万一二〇〇円)

(7) 石五五い一八―七〇について

タイヤ一本五一五〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計六〇五〇円)

(8) 石五五い一八―三四について

タイヤ一本五一五〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計六〇五〇円)

(9) 石五五い二一―一四について

タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計一万一二〇〇円)

(10) 石五五い一八―三六について

タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ二本一八〇〇円(以上合計一万二一〇〇円)

(11) 石五五い一八―〇五について

タイヤ一本五一五〇円、チューブ一本九〇〇円(以上合計六〇五〇円)

(12) 石五五い一八―二三について

タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ二本一八〇〇円(以上合計一万二一〇〇円)

(13) 石五五い三〇―六二について

タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ二本一八〇〇円(以上合計一万二一〇〇円)

(14) 八石く六六―〇七について

バッテリー取替費用八五〇〇円

(15) 石五五さ八―三九について

バッテリーの取替費用一万一〇〇〇円、タイヤ二本一万〇三〇〇円、チューブ二本一八〇〇円(以上合計二万三一〇〇円)

(16) 石五五す二七―三八について

この車は昭和四九年九月二日昼被控訴人組合員らによつて乱打され奪取されたものであるが、右車体毀損行為により、フロントバンパー取替脱着費用三万二八〇〇円、フロントグリル取替脱着費用一万五〇〇〇円、ライト関係取替費用八六〇〇円、左右リモートコントロールミラー同二万七〇〇〇円、左右サイドマーカーランプ等同三万七七四〇円、テールライトグリル等同一万七六〇〇円、マフラーカッター同一二〇〇円、ドアミラー同三六〇〇円、ネオコントロールランプ同二四〇〇円、リヤバンパー同三万二八〇〇円、フロントウインド脱着費用五〇〇〇円、リヤウインド同一万五〇〇〇円、トランク取替費用一万八五〇〇円、リヤウインドモール同三六〇〇円、左右ステップモール同四〇〇〇円、ホイルキャップ二枚同九四〇〇円、フロントフェンダー板金費用五〇〇〇円、ルーフ同二万円、車体各所同一万円、板金・塗装のための内装脱着費用一万八六〇〇円、焼付塗装費用一〇万七〇〇〇円(以上合計三九万四八四〇円)

の損害を蒙つたことが認められ、その総計は六四万九四九〇円となる。そして、右損害は、被控訴人労組が右各自動車を長期間適切な保存措置をなさずに抑留したことにより、或いは被控訴人労組の意思として(16)の車両を奪取した際に生じたものであると認めるのが相当であり、右損害は、本件ストと相当因果関係がない旨、また被控訴人労組の指揮・命令に基づく行為の結果ではなく、個人としての行為によるものである旨の被控訴人労組の主張は、前認定事実に照らし採用できない。

(二)  控訴人は、前認定の損害のほか、前記自動車のうち(一)(1)についてワイパーブレード損壊、(2)について左前ドア損壊、(3)についてボディ塗装損傷、(4)について左右フロントドア、リアフェンダー損壊、(5)についてフロントフェンダーその他損壊、(14)について右ドア、右リヤフェンダーその他、(15)について左右リアドア、リアフェンダーその他の損壊があつたと主張し、本件証拠によると、右部分に右主張の如き損傷を生じている事実が認められるが、昭和四九年九月二日未明の襲撃事件の際生じた可能性も考えられるので、右損害は専ら被控訴人労組の行為と相当因果関係のある損害と認めることはできず、また同(15)の車についてシートが刃物で切りとられている、ホイルキャップ四枚が盗まれている、タイヤ二本が千枚通しで刺されている、(16)の車についてタイヤ・チューブ二本が刃物で切断されている、また建物には錠前、ガラスが損傷し、落書きがある旨主張するが、これらの損傷が被控訴人組合員の行為に因るものと認定するに足る確証はないのみならず、各損傷の態様に照らせば、被控訴人労組の組合員の何びとかがこれらの行為を行つたとしても、被控訴人労組の方針・戦術としてその指令又は承認のもとに行なわれたものであるとは認め難く、そのほかに被控訴人労組の行為であることを認めさせる証拠はないから、個人的行為と認めるを相当とすべく、その損害を被控訴人労組に対し請求することはできない。

(三)  被控訴人労組は、控訴人が前認定の損害賠償を請求するのは権利濫用である旨主張するが、被控訴人労組が控訴人に対し反訴請求をしている状況のもとでは、タクシー業を営む控訴人が損壊された所有又は保有の自動車の修理代を請求することは、同被控訴人主張の事情を考慮しても、何ら権利濫用として排斥しなければならないものとは考えられないので右主張は理由がない。被控訴人労組は次に過失相殺を主張する。そして前認定の事情及び後記認定の本件ストライキに至る控訴人、被控訴人労組対立の原因に照らすと、控訴人は本件自動車の損傷について、その損害の発生並びに拡大防止に関し過失があつたと認められるので、右被害者の過失を斟酌すると、控訴人が被控訴人に請求できる損害賠償金は五〇万円と認定するのが相当である。

6  結 論

以上によると、被控訴人労組は控訴人に対し、損害賠償金五〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五〇年七月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、控訴人の本訴請求を右限度で認容し、その余を失当として棄却すべきである。すると控訴人の本訴請求を全部棄却した原判決主文第一項は一部において相当でない。

二被控訴人労組の反訴請求について

1  労働組合においては、使用者から不当労働行為がなされた場合、右行為による侵害を排除して原状回復を図りうる法的手続が認められているけれども、右手続によつては回復され得ない損害が労働組合に発生した場合には、労働者の団結権を侵害する使用者の行為が民法七〇九条の構成要件に該当する限度で、当該労働組合は、使用者に対し、右損害の賠償を請求できると解される。

2  よつて、事実関係につきまず判断するに、控訴人はタクシー業を営み、営業車二三台、自家用車三台を保有する株式会社であり、被控訴人労組は控訴人会社従業員で組織された、昭和四九年四月四日結成の企業内組合であること、被控訴人労組は、賃金改定について、同年同月一五日、二一日、二五日及び三〇日の四回にわたつて控訴人と団体交渉をもつたこと、控訴人は、賃金について歩合制とリース制(ボーナス還元方式……以下同じ)の二本立てを主張したが、同年四月二五日にはリース制案を棚上げし、控訴人側の歩合制案を示したこと、しかし折合いがつかず控訴人は、同年四月三〇日には再びリース制案を実施する旨提案し、右以外の賃金案では団体交渉に応じない旨被控訴人労組に通告したこと、このため、被控訴人労組は、同年五月一日より第一次ストライキに入り、右ストライキは同月一二日まで続けられたこと、控訴人は、第一次ストライキが開始される直前に、直接個々の従業員に対し「新しい賃金制度について」と題する文書を手渡したこと、訴外加藤信次が被控訴人労組を脱退したこと、同年五月一二日、労使間に前記同年四月二五日の団体交渉における会社案を基調とした歩合制賃金についての協定書及び脱退組合員の処遇についての覚書が交されたこと、控訴人は、被控訴人労組の昭和四九年六月七日付文書による団体交渉の申入れを拒否しまた、同年六月九日付文書による団体交渉の申入れをも拒否したこと、控訴人は、同年七月一一日付文書で北村書記長を、同月二〇日付で斎藤委員長を、それぞれ解雇したこと、昭和五〇年三月二二日、本件ストライキは解除されたこと、控訴人は被控訴人労組書記長の葦名を同年一〇月一〇日付で解雇したこと、本訴提起時に残つていた被控訴人労組の気谷、葦名及び尻井の組合員三名は次々に控訴人会社を退職したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

3  そして、前記当事者間に争いのない事実、<証拠>を総合すれば以下の事実を認めることができ、<証拠>中この認定に反する部分は措信せず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被控訴人労組結成に至るまでの経緯

控訴人会社の賃金は、いわゆる歩合制とリース制を従業員の希望で選択する賃金体系となつていたが、労働組合は結成されておらず会社従業員は当時の労働条件を不満として、昭和四九年二月に至り、代表者を選んで経営者側と賃金体系の改善について交渉することになつた。控訴人は、右のような従業員の要求に対し、賃金体系について検討中であると主張するのみで真摯に検討しようとしなかつた。そればかりか、会社側は右従業員により選出された代表者を無視して他の従業員に直接働きかけ、リース制賃金を提示しようとした。そのため、従業員の中に、自己の労働条件を改善するには、労働組合を結成することが必要であるとの気運が高まつた。こうして、昭和四九年四月四日全員一致で被控訴人労組の結成を決議した。右結成大会において、規約が採択され、組合結成の中心となつた斎藤が委員長に、訴外北村正男が書記長にそれぞれ選任された。しかし控訴人は、右組合結成の動きを事前に察知し、同年四月三日の朝、従業員の一人に対し、控訴人代表取締役塩村勝之が電話で「組合を作るという話を聞いたが、何とか組合を作らせないようにしてくれ。」と依頼するなど、早くも被控訴人労組を嫌悪し、その結成を未然に防ごうとする動きを見せた。

(二)  被控訴人労組結成後本件ストライキに至るまでの経緯

被控訴人労組は、昭和四九年四月九日、賃金改定について団体交渉の申入れをし、四回にわたつて控訴人と団体交渉をもつた。控訴人は、当初、賃金について歩合制とリース制の二本立を主張したが、被控訴人労組の説得により、リース制案を棚上げすることを明言し、右二五日には控訴人側の歩合制案を示した。しかるに折合がつかず控訴人は、右三〇日には再びリース制案を実施する旨提案し、被控訴人労組に対し、右以外の賃金案では団体交渉に応じることが出来ないとの通告をした。このため、被控訴人労組は、同年五月一日、組合大会を開き、第一次ストライキに入つた。右ストライキは同月一二日まで続けられた。ところが、控訴人は、ストライキ突入直前に、直接個々の従業員に対し、「新しい賃金制度について」と題する文書を手渡し、被控訴人労組の頭越しに個々の従業員に対し直接伝える手段に訴えた。また、団体交渉に際し被控訴人労組側の出席者を指定するなどした。さらに控訴人は、第一次ストライキの期間中、訴外加藤信次を被控訴人労組から脱退させ、控訴人の会社役員や管理職らが右加藤とともに被控訴人労組の組合員と面談したり、また、その自宅を訪問したりなどして、いわゆる切りくずし脱退工作を行ない、そのころ、右加藤の他に六名の組合員が被控訴人労組を脱退した。しかし、結局、同年五月一二日、労使間に、前記同年四月二五日の団体交渉における会社案を基調とした歩合制賃金についての協定書及び右脱退組合員の処遇についての覚書が交された。その際、控訴人と被控訴労組との間で、「①新賃金は昭和四九年四月二五日の団体交渉で控訴人より回答のあつた歩合制賃金とする。②右の具体的運用細目については、後日労使で協議する。③右の実施時期は同年四月分賃金から行なう。④控訴人より提案のあつた新賃金制(リース制賃金)については、棚上げとする。但し、今後は労使間で新賃金制について協議する。⑤双方は、今次紛争解決にあたり、過去の感情を一切捨て、労使があらゆる問題について平和的に解決することを相互に確認するとともに、労使の正常化のため努力する。⑥被控訴人労組より脱退した組合員については、脱退の中心人物であつた加藤を除く他の者は控訴人会社へ復帰させるが、右加藤については控訴人会社には就労させない。」との合意が成立し、争議は一応収拾された。被控訴人労組は、前記②の合意に基づき、歩合制賃金の具体的運用細目についての協議を公式、非公式に何度も申し入れたが、一度も協議をもつことができなかつた。控訴人は、被控訴人労組の同年六月七日付文書による団体交渉の申入れ(日時昭和四九年六月九日午後一時より、議題労使正常化のための諸問題解決のため① 勤務時間と時間外手当の支給について ② 賃金規定の細目について ③ 就業規則制定と労働協約締結の件 ④ 労使運営の正常化について)を組合側の交渉員の件で拒否した。また、控訴人は被控訴人労組の同年六月九日付文書による団体交渉の申入れ(日時同月一〇日午後三時より議題右に同じ)をも同じ理由で拒否した。控訴人は、被控訴人労組の組合員と非組合員とを差別し、前記⑤の合意に反する態度をとり続けた。さらに、控訴人は、前記⑥の合意にも反して、加藤を除く他の脱退組合員を控訴人会社に復帰させず、逆に加藤を会社に復帰させた。第一次ストライキ終了後、控訴人代表者塩村勝之は、「自分の所有する宅地を売却し、その代金五〇〇〇万円をかけてでも県評と対決する。組合は潰してみせる。」とまで豪語し、脱退組合員を使つて組合員宅を戸別訪問させて組合脱退を促した。控訴人は同年七月四日、被控訴人労組の中心的活動家で書記長の北村に対し口頭で解雇する旨通告し、同月一一日付文書をもつて右解雇を明確にし、同じく被控訴人労組の中心的存在であつた委員長の斎藤を同月二〇日解雇した。

被控訴人労組は、できるだけ平和的解決を図るべく、同年六月一一日、地労委への斡旋申請を行なつた。しかし、右の斡旋期日においても塩村勝之は、実質的な話合を全くしようとせず、逆にその席上で、前記のとおり、斎藤委員長に対し、「お前はくびだ。」と解雇を通告した。

(三)  本件ストライキ開始後終了までの経緯

本件ストライキ開始当日である昭和四九年七月二六日の午前八時過ぎころ、控訴人代表取締役塩村勝之、同哮治、非組合員の訴外下坂進、脱退組合員の吉田らが本件ストライキの現場である会社本社に至り、非組合員の就労要求をしたが、本社前に集つていた被控訴人労組の組合員や他労組からの多数の支援者らはこれを拒否し、控訴人の要求に全くとりあわなかつた。その際勝之はスト決行中であることを記した大きなびらを破つたりなどした。本件ストライキを支援するために、被控訴人労組の組合員の他にも、被控訴人県評に加盟している他の労働組合の組合員が多数集合していたけれども、右組合員らは特にスクラムを組んだり、シュプレヒコールを上げたりその他勝之らを集団で威嚇したりなどはしなかつた。控訴人はスト開始当日の要求のほかは、同年一二月一二日付内容証明郵便による通知前には、被控訴人労組に対し車両の返環要求をしたことはなかつた。地労委に係属していた斡旋も、地労委委員の努力にも拘らず、同年九月二四日、不調となつた。控訴人はスト中である同年九月一日夜、予め金沢市のムサシホテルに代表者の勝之らが、脱退組合員らを集めて謀議したうえ、同月二日未明、トラック数台を含む何台かの車両に分乗して、会社役員の塩村哮治を始め脱退組合員、訴外泉製材所の労務者合計約二〇名の者が本社へ赴き、まず、右哮治が本社内に入り、電話線を切断して外部に連絡できないようにするとともに、電源を切つて事務室及び駐車場を真暗闇にした後、所携の角材、とび口、竹ざおなどを振り回し、コーラのビンを投げつけたりしながら乱入し、同夜同所で寝泊りしていた被控訴人労組の組合員らを、暴力を用いて休憩室に押し込めて監察するなどし、駐車場にあつた営業車一〇台をロープで牽引したりして実力で運び去つた。右暴力的襲撃によつて、被控訴人労組の斎藤委員長は、肋骨骨折の重傷を負うなど、現場にいた被控訴人労組員の者全員が負傷した。右の襲撃行為に対して、当時本社内に泊り込んでいた被控訴人労組の組合員やその他の支援者らも反撃した。その結果、控訴人側に二名、被控訴人労組側に六名の負傷者が出た。右事件に関し、控訴人側では、哮治、脱退組合員の加藤、吉田、訴外岡本嘉盛の四人が監禁致傷罪の容疑で、被控訴人労組側では、組合員の尻井、総評オルグ梅沢の二人が傷害罪等の容疑で逮捕された。右事件前においては、本件ストライキ期間中、哮治が三階の住居部分に行くため本社内に時々出入りしていたものの、被控訴人労組において哮治が本社内を通行することを実力をもつて妨害したりなどはしなかつた。また、前記のとおり解雇された斎藤委員長及び北村書記長は、金沢地方裁判所に対し地位保全の仮処分申請を行ない、昭和四九年一〇月二八日、同裁判所は右解雇は無効であるとして申請を認容する決定をした。そこで、右決定を契機に、紛争を平和的に解決するため、労使双方から、再度、地労委に対し紛争解決の斡旋を申請した。右斡旋申請は、労使双方とも本件ストライキでの被控訴人労組の要求事項など争議解決に必要な一切の事項について斡旋を求めたものであつた。ところが、右斡旋が昭和四九年一〇月三一日を第一回として始まるや間もなく、控訴人は、第一次ストライキの解決の際の協定に基づく賃金の具体的運用細目は斡旋になじむが、その他の解雇問題等は斡旋になじまないと主張して、右運用細目以外の話合は一切拒否するという態度に出た。そこでやむなく、被控訴人労組は、控訴人と、右具体的運用細目についての協議を同年一二月より開始した。すると控訴人は、賃金についての基本は既に第一次ストライキ終了時の際に合意されていたにも拘らず、その具体的理由細目ばかりか基本的事項までも見直すことを主張し、その改定案に固執したため、右具体的運用細目自体の協議も長引き、昭和五〇年二月九日に至りやつと右細目協定が成立した。そして、控訴人は、右協定が成立するや、地労委の昭和五〇年三月一二日、第一五回めの斡旋の席上、一方的に斡旋申請の取下を宣言して退席し、斡旋自体を拒否するに至つた。控訴人の右のような態度に鑑み、もはや紛争の平和的解決は望めず、労使運営の常識に欠ける控訴人とこれ以上の話合は無意味であるとの判断から、昭和五〇年三月二二日、被控訴人労組はストライキを解除して就労することを決定し、二三九日間に及ぶ本件ストライキを解除した。

(四)  本件ストライキ終了後から被控訴人労組の組合員が皆無となるまでの経緯

控訴人は従業員に対し、昭和五〇年三月二八日、臨時乗務員取扱規則を示してその実施を図つた。地労委の斡旋によつて昭和五〇年二月九日に労使の合意をみた前記細目協定について、勝之は、地労委の公開の席上において、一企業一賃金の原則から全従業員に適用されるものであることを肯定していたにも拘らず、地労委の斡旋を拒否した直後に、右細目協定によるものとは別個の賃金体系であるリース制賃金を定めた前記臨時乗務員取扱規則を被控訴人労組の反対を無視して強行実施した。本件ストライキの唯一の成果であり、地労委で長期間かけてようやく成立した前記細目協定をわずか二か月も経たないで反故にされ、リース制賃金を導入されたことから組合員の無力感が強まり、昭和五〇年三月下旬、約一〇人の組合員が控訴会社を退職して組合を去つた。次に、控訴人は従業員に、同年六月一八日、乗務員賃金規定なる新たな賃金案を提示し、これを三日後の六月二一日から実施する旨通告し、前記細目協定を完全に無視し、右と同時に運賃改訂に伴う歩合制賃金の歩合率を従業員に不利益に一方的に読替える旨通告した。続いて、控訴人は、被控訴人労組に対し、同年六月二二日、前記細目協定を破棄する旨通告した。こうした中で、控訴人は本件ストライキ終了後に、会社に留まつた組合員に対し、前記臨時乗務員取扱規則を利用して賃金を差別したり、組合員には古い営業車をあてがうなどして非組合員と組合員とを差別した。右のような扱いにより、被控訴人労組の組合員の中から会社を退職していく者が増えていつた。しかし、当時委員長であつた気谷及び書記長であつた葦名は、少数になつた被控訴人労組の中心となつて活動を行なつていた。控訴人は右葦名に対し同年九月一〇日、口頭で解雇を予告し、同月二六日付文書で同年一〇月一〇日限り解雇するとの意思表示をした。右の解雇理由は、「葦名が昭和五〇年七月二一日、控訴人会社従業員伊達昭雄を競馬場まで営業車にて案内した際、その料金は待料金を含めて約二〇七〇円であつたのに一〇〇〇円しか領収せず、その差額一〇七〇円の損害を控訴人に与えた。なお、伊達は往復一〇〇〇円の約束であつたと自認しているのに、葦名の運転日報には九一〇円と記入され、控訴人会社社長の質問に対しても九〇円はチップであつた如く申し立て一向に反省の色がない。」というものである。しかし、右解雇もその後無効と判断された。右解雇後、同年一〇月から一一月にかけて最後まで組合に残つていた気谷委員長及び尻井組合員が会社を退職した。

4  以上の事実が認められるところ、控訴人は前認定3、(二)の団交拒否には正当な理由があつたと主張する。この点につき被控訴人労組は、右控訴人の主張は当審においてはじめてなされたもので時機に遅れている旨主張するが、当審における審理の経過に照らすと、右は特に訴訟の完結を遅延せしめるものではないことが明らかであるから、控訴人の右主張の追加は許される。よつて右主張につき判断するに、<証拠>によると、昭和四九年五月三〇日控訴人は被控訴人労組の委任を受けたハイタク共斗議長篠塚重男と労使間の正常化について話合つた際、団交員として会社側は社長他二名、組合側は組合三役及び篠塚とすることに話合いがついたこと、そして右合意の人数で同年六月二日団交が開かれたのであるが、同年同月九日東金沢営業所で開かれた団交では、控訴人から組合側団交員は委員長他二名、県評代表として篠塚のみと回答してあつたにも拘わらず、組合側は委員長を含め合計六名、篠塚のほかに被控訴人労組から委任を受けた総評地方オルグの白浜・梅沢も出席していたこと、そこで控訴人側は組合側の約束違反を指摘して直ちに席を立ち実質的団交に入れなかつたこと、その後同年同月一〇日の団交も同様の理由で控訴人から拒否されたこと、その後控訴人から、前記合意の人数でなら団交してもよい旨申入れたが、被控訴人労組はその条件でなら応じないとして拒否したことが認められる。右事実によると、控訴人は、双方各三・四名宛の小人数で団交を持つことを考えていたと認められ、組合側が九名を出席させたのは約束違反というべきであるが、右人数制限の合意が絶対的なものであつたか否か明らかでないうえ、開催場所に照らすと、九名が不当に多い人数とも解されず、右程度の人数超過が団交に如何なる支障を与えるのか実質的理由について立証のない本件においては、開始早々、組合側の違約の理由とか、その善処方法について何ら協議せず、約束違反を指摘したのみで控訴人側が席を立つたのは、やはり団交拒否といわざるを得ず、控訴人に団交を拒否するに足る正当な理由があつたというには不十分である。しかし正当な理由のない団交拒否については労働委員会に救済申立をすることができるのに、被控訴人労組において当時団交拒否に関し右申立をした証拠はないから、双方が交渉員の人数に関し対立したまま経過したものと認められ、意見対立をもたらした前記認定の経緯に照らすと、被控訴人労組に実害があつたとは認められず、控訴人の右団交拒否をもつて不法行為であるとし、これによつて被控訴人労組に無形の損害が発生したとまで認定することはできないというべきである。

次に、前認定事実によると、控訴人は、被控訴人労組の斉藤委員長及び北村書記長を解雇しており、金沢地方裁判所において右各解雇は無効であると判断されていること、その他前認定にかかる経過並びに右解雇のなされた時期、同人らの地位等に照らすと、右各解雇は、控訴人の被解雇者個人に対するばかりでなく、被控訴人労組に対する攻撃であると認められ、右被解雇者が地位保全の仮処分を得てもなお被控訴人労組に無形の損害が残つたものと認めるのが相当であり、不法行為になるものと認めるのが相当である。また昭和四九年九月二日の控訴人会社役員及び従業員らの襲撃事件は、その事実経過に照らし、控訴人の被控訴人労組に対する不法行為となることが明らかである。右各行為は不法行為とならない旨の控訴人の主張は、前記認定に照らし採用できない。葦名書記長の解雇は、結局無効と認められるものであるが、運賃を領収しなかつた事実は存在しており、その当否が問題となつたものというべく、解雇理由並びに解雇時期に照らせば、右解雇は、個別的問題であつて葦名個人に対する関係ならともかく、右解雇をもつて被控訴人労組に対する不法行為とみることはできない。

以上不法行為と認められる各事実に、前認定事実から認められる、控訴人が被控訴人労組の結成当初からこれを嫌悪していた事実を総合すると、控訴人は、被控訴人労組を弱体化させる目的のもとに右各行為を行ない、被控訴人労組の団結権を侵害し、もつて被控訴人労組の団体としての固有権ないしはその名誉・信用を毀損したものというべきである。そして被控訴人労組が被つた右無形の損害は、不当労働行為の救済手続によつては完全に回復し得なかつたものであることが明らかである。従つて、被控訴人労組は民法七〇九条に基づき右損害の賠償を求めることができる。

そして、前認定にかかる被控訴人労組の結成の経緯からその活動状況、控訴人の侵害行為の態様、被害の程度等諸般の事情を総合すると、本訴理由中において認めた前記控訴人の過失相殺分を除いてもなお、被控訴人労組の受けた無形の損害は、これを金銭に評価すると、五〇万円を下らないと認めるのが相当である。

控訴人は、被控訴人労組が行つた違法なストライキによつて、本訴請求分以外にも相当額の営業上の損害を蒙つているから、右損害賠償請求権と、反訴認容分の前記五〇万円の損害賠償債務とを対当額で相殺する旨主張するが、民法五〇九条は、本件の如き同一の労働紛争から生じた損害賠償債権相互間における相殺をも禁止していると解されるから、控訴人の右主張はその余の点につき判断するまでもなく失当である。

5  すると、被控訴人労組の控訴人に対する反訴請求は五〇万円及びこれに対する反訴状送達の翌日である昭和五二年四月二三日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。すると、右限度で本件反訴を一部認容した原判決は相当である。

三結 論

以上により、原判決主文第一項中、控訴人の被控訴人労組に対する請求を棄却した部分を前認定の限度で認容する旨変更し、その余の控訴を棄却することとし、訴訟費用、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九六条、第八九条、第九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官井上孝一 裁判官三浦伊佐雄 裁判長裁判官山内茂克は転補につき署名押印できない。裁判官井上孝一)

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